不正競争防止法と「営業秘密」
Corporate Law
退職した従業員等が営業秘密である顧客情報を不正に持ち出し、顧客情報を利用して競業活動を開始したとして相談を求められる経営者の方々が増えています。
退職した従業員等が退職後、競業活動を行うことを防止するため、就業規則等で競業避止義務を設定する企業も多く認められるところですが、「就業規則での競業避止義務の策定は慎重に」のタイトルの項でご説明いたしましたとおり、退職従業員等の退職後の活動を規制する就業規則の効力が認められるためには、避止義務の対象となる「業務」の内容を明確化させることや、規制対象地域や規制期間等を限定設定することで退職従業員等の退職後の職業選択及びその遂行の自由やその生存を不当に脅かすことがないよう充分な配慮をすることが大切となります。
経営者の皆様方のなかには、顧客情報が「営業の秘密」であるとして、その不正利用を問題としてご指摘される方が多くおられますが、顧客情報が法律上、秘密として保護されるかどうかは一定の考慮を必要とします。
法律上、「秘密」の概念は多義的なものであって、法分野において異なった定義がなされるのが通常で、例えば、国家公務員法は、国家公務員について、「職員は職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。
その職を退いた後といえども同様とする。」と規定し(国家公務員法第100条1項)、地方公務員法は、地方公務員について、「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。
その職務を退いた後も、また、同様とする。」と規定し(地方公務員法第34条1項)、職務上知ることのできた「秘密」について守秘義務を法律上、課しています。
同様の規定は、刑法典においても認められ、医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人、宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の「秘密」を漏らした場合には刑罰を科されることになります(刑法第134条)。
これらで保護が要請されている人の「秘密」は、特定の職にあり、あった者がその職務の過程で知り得た人の「秘密」であり、客観的な見地から「秘密」として保護されることが必要かつ相当な情報ということになります。
これに対し、不正競争防止法上の「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものを指します(不正競争防止法第2条6項)。ここでは、法律上、ある情報が「営業秘密」として保護されうるためには、
- ①その情報が公然と知られていない非公知情報であること、
- ②情報が事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること、
- ③情報が秘密として管理されていること
が必要となります。
情報が公然と知られている場合、その情報が秘密を構成しないことは当然ですが、不正競争防止法が事業者間の公正な競争を図ることを目的に制定されたものであることを踏まえ、同法で保護される秘密情報は、事業活動上有用な技術又は営業上の情報ということになります。
更に、同法による保護を受けるためには、その情報が秘密として管理されているものでなければなりません。
顧客情報が営業秘密として同法による保護を受けるためには、その情報が管理されていたという実態が証拠上、認められることが必要で、管理の実態を欠くものであれば同法による保護が認められず、法律上の保護の範囲は限定的なものとなります。
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京都双葉法律事務所 弁護士 中井基之(京都弁護士会所属)
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