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秘密保持契約(NDA)の隠れた落とし穴その①

Corporate Law
「形式的になっている秘密保持契約書」のタイトルで秘密保持契約の締結が一種のルーチンワーク(Routine Work)になっている実情があることを述べましたが、保持されるべき秘密の内容や保持義務違反の効果等を充分、精査検討することなく定型的に契約の締結が行われている実情が認められ、秘密保持契約の形骸化を指摘できます。
秘密保持契約を策定されるに際し、保持義務の対象となる秘密の内容や契約の拘束期間、契約違反の効果等を充分、検討することなく秘密保持契約を締結するとそれ自体が「トラブルの種」になりかねませんし、共同事業を遂行するに際して締結される秘密保持契約には片面的に義務を課す内容の契約も認められますので、想定外の過重な負担を被らないためにも、契約を締結されるに際し、契約内容を精査検討することは極めて重要なことです。
秘密保持契約は通常、秘密情報を保有している企業等が研究、開発その他共同事業を行う企業等との間で自己の保有する秘密情報の不正な流出、利用を防止するために締結されるものですが、そこで秘密保持義務を負担することが直接、予定されているのは、契約を締結した企業等であり、企業等の個別の構成員ではありません。
例えば、A社とB社との間で秘密保持契約を締結した場合、当該秘密保持契約上の秘密保持義務を直接、負担するのはA社とB社であり、A社の構成員及びB社の構成員ではありません。
もっとも、秘密保持契約の条項において、その構成員に秘密保持義務を負担させる規定を設定することもできますし、契約の合理的解釈としてその構成員も秘密保持義務を負担すると理解することができますので問題がないようにも思われます。
しかし、開示情報の秘匿性を徹底させるためには、契約の拘束力が及ぶ射程範囲を充分、吟味し、格別の配慮を払う必要があります。
一般に、契約の解釈の問題として契約の拘束力が及ぶ人的範囲の問題があります。
例えば、主婦があるスーパーで卵豆腐を購入したところ、卵豆腐にサルモネラ菌が混入していたために購入した主婦及びその家族が購入した卵豆腐を食べて食中毒になり入院したとします。
この設例の場合、卵豆腐を購入した主婦が卵豆腐を販売したスーパーに対し契約責任を追及できるのは当然ですが(拡大損害についてはどこまでの範囲で責任を負担するかについて、因果関係の問題等と関連して議論もありますが…)、その主婦の家族は、スーパーとの間で何らの契約を結んでいるわけではありませんので、契約責任を追及できないようにも思われます。
契約の当事者を形式的に理解すると、当事者は、卵豆腐を販売したスーパーと卵豆腐を購入した主婦ですから、スーパーは契約の当事者ではない主婦の家族との関係で契約責任を負担しないとも考えられるのです。
しかし、卵豆腐は主婦が家庭において家族とともに食べるために購入されたものであり、卵豆腐を販売しているスーパーとしても卵豆腐が家庭で消費されるものであることを充分、想定できるはずです。
ですから、主婦の家族が形式的には契約の当事者ではなくても、契約の趣旨や目的その内容を合理的に解釈すると「契約の当事者」と解釈することも可能で、家族に対する関係でも契約責任を負担するものと判断されても問題はないはずです。
秘密保持契約の拘束力の射程範囲を、契約を締結した企業等だけでなく、その構成員一般に及ぼすことが可能かどうかといった問題も結局はこの契約の解釈の問題になるものと思われ、契約の合理的解釈により企業構成員に秘密保持義務が課されていると解釈することで何ら問題がないように思えますが、やはり契約書の策定に際しては、工夫や検討を重ねることが大切でしょう。
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京都双葉法律事務所 弁護士 中井基之(京都弁護士会所属)
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