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従業員に対する金銭の貸付けと労働契約の解雇

Corporate Law

厳しい価格競争の中で世間ではデフレが進行しているといわれますが、長期の円高が続いても輸入食料品の価格はそれほど安くはなく、コモディティマーケット(商品市場)における商品価格の高騰もあってか、逆にインフレを感じさせることもあります。

労働者の賃金についてもベアアップを労働組合が要求していますが、今後、人、物を含めすべての国際的な市場の流動性は飛躍的に高まることが予想されますから、わが国における総体的な賃金の上昇を期待することは厳しく、賃金は上昇しないが物価が上昇するという時代の到来も予想されます。グローバル経済の進行と国家の累積債務解消の先送りの問題は、我が国の経済に暗い影を及ぼし、企業の外部的経営環境の厳しい見通しを否応なく突きつけるものです。

貸付けである以上、貸付金は返済されなければなりませんが、従業員のなかには返済を長期にわたって怠り、事業者とトラブルになる場合があることも少なくありません。

このような場合、事業者の方から従業員に対し支払う賃金とで相殺することが可能かというご相談をお受けすることがありますが、貸金債権を賃金債権とで相殺することは、その貸金が「前借金その他労働することを条件とする前貸の債権」である場合は労働基準法17条に抵触しますし、労働基準法第24条第1項の「賃金支払の基本原則」にも抵触する恐れがありますので、事業者側からの一方的意思表示による法定相殺は慎重であるべきものと思われます。

これに対し、事業者と従業員との間での合意による合意相殺について最高裁は、「(労働基準法第24条)は、使用者が労働者に対し有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨を包含するが、労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、相殺は本条に反するとはいえない。」と判示しており(最高裁平成2年11月26日第二小法廷判決)、限定的ではありますが相殺が認められています。

ただ、従業員の自由意思等合理的理由の客観的証拠の確保が必要となりますので注意が必要です。

従業員に対する貸付けトラブルの延長として、従業員が貸付金を返済しないことを理由に解雇することが可能かというご相談をお受けすることもございますが、労働契約と金銭消費貸借契約とは別個の契約であり、従業員の労務の給付に問題がない限り貸付金の不払いを理由とする解雇が認められることはないと思われます。

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京都双葉法律事務所 弁護士 中井基之(京都弁護士会所属)
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