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就業規則での競業避止義務の策定は慎重に

Corporate Law

京都双葉法律事務所にご相談に来られる方のうち、最近、顕著に増加しているご相談内容の一つが従業員の会社退職後の競業行為に関するご相談です。

企業の中には、就業規則や従業員の退職の際の誓約書等で、従業員の退職後の同種営業行為・競業行為を禁止するところを多く見受けます。たしかに、費用と時間をかけて育成した従業員が退職後に競業行為を行い、自社の利益を損なうことは許し難いという企業側の論理も理解できないわけではありません。しかし、退職後の従業員の同種営業行為・競業行為を規制することは、退職後の従業員の生活に重大な不利益となることは否めませんから、就業規則等で退職従業員の同種営業行為・競業行為を規制する場合には、その策定を慎重に行なうことが必要です。同種営業行為や競業行為の規制を設ける場合には、規制の対象となる「同種営業」や「競業」の内容を明確にするとともに規制対象地域や規制期間を限定する等の工夫が必要になるでしょう。また、代償措置を定めることも必要となるかもしれません。

この種の同種営業行為・競業行為に関し、しばしば問題となるのが、同種営業行為・競業行為を行った場合に退職金を支給しないとする就業規則または就業規則に基づく退職金規則の規定の有効性に関する問題です。この問題については、「退職金規則において、制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき、その点を考慮して、支給額を一般の自己都合額による退職の場合の半額と定めることも、合理性のない措置であるとすることはできない。」とする最高裁判所の判例があり(最高裁昭和52年8月9日第二小法廷判決)、一定の場合に、退職金の不支給を正当化しているものと解されますが、極めて古い判例であり、近年の下級審判決には、退職金規則の規定を無効と判断するものも多く見られ、流動的な様相を呈しています。

また、近時、退職従業員の同種営業行為の違法性に関し(同種営業行為を規制する合意がない場合)、最高裁判所は、退職従業員が競業行為を行うことが違法と評価されるには、退職会社の「営業担当であったことに基づく人的関係を利用することを超えて、営業秘密に係る情報を用いたり」、退職会社の「信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行なった」等不正な手段を講じて競業活動を行なう等、当該競業活動が社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものであるとの評価がなされるべきことを必要とすると判示しており(最高裁平成22年3月25日第一小法廷判決)、退職従業員の同種営業行為が違法性を有する場合につき限定的な態度を表明しています。自由競争を促進する立場からは大変望ましい判断であり、退職従業員の同種営業行為・競業行為を規制することを意図される企業としては、このような裁判所の傾向を理解し、規定の創設に際しては慎重な配慮を払うことが大切でしょう。

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京都双葉法律事務所 弁護士 中井基之(京都弁護士会所属)
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